バスルームに入ってたっぷり1時間も経過した後。
2人の身体はバスルームからベッドルームへと移っていた。
ユーリがベッドに腰を下ろし、床に座るコンラッドの髪をドライヤーで乾かしていた。
「おれの腕じゃあ、『何ちゃって床屋さん』程度にしか仕上げらんないと思うけど」
「いいよ、それでも」
ユーリに髪を乾かしてもらうという状況に喜びを見出すコンラッドにとっては、仕上がり自体はどうでも良かった。
ちなみに彼は上半身裸だが、ユーリは逆にコンラッドから借りたTシャツ一枚という格好だ。下着もなし。ユーリの服は上から下まで全部、コンラッドが洗濯機に放り込んでしまった。コンラッドの、ユーリに対する『すぐに帰って欲しくない』という意思表示である。
裸Tシャツなど、普段のユーリなら恥ずかしくて居たたまれなくなるような格好だが、先程浴室で共有した快楽が尾を引いていて、ユーリを何処か恍惚とした気分にさせていた。
櫛とブラシを用いて、どうにかまともに見えるよう、コンラッドの髪を乾かしていく。
ちなみに、彼の髪を洗ったのもユーリだ。コンラッドもユーリの髪を洗おうかと思ったが、その前に関心が別の所に向いてしまったので、洗わないままになってしまった。
コンラッドが床に置いていた右手を動かし、ふざけてユーリの足に触れ、足の指の間を撫でる。
その手つきが意図的で、ユーリは思わず
「やっ…」
と、声を上げて足を動かしたが、足の親指が、コンラッドの手にぶつかってしまった。指の間を撫でられるだけで反応するようになったのは、身体を重ねた回数の多さの賜物だろうか。
「あ、ごめんコンラッド。大丈夫か? しばらく爪切ってなかったからさ…痛くなかった?」
「大丈夫」
コンラッドはユーリの足の親指を撫で、爪が長い事を確認した。
「本当だ…爪、切ろうか」
ユーリが髪を乾かし終わった後、コンラッドはドライヤー等を片付け、爪切りを持ってきた。床に胡座で座り、ユーリの足を取って爪を切り始める。
黙々とそんな作業が続いた。甘ったるい雰囲気の中で、ひどくお互い無口になる。
ユーリは後ろに手をついて黙っていたが、コンラッドの口元に浮かぶ笑みを見て取って、こう言った。
「……コンラッド」
「ん?」
「すっげー楽しそう」
「分かる?」
「…オヤジ趣味…」
ユーリは少し腰を引いた。そうしないとTシャツの裾が上がり、腿が見える所の話でなくなってしまうのだ。現にコンラッドはじろじろといやらしい視線を内腿に向けている。
「見んなよっ…」
ユーリは膝を合わせて足をぴたっと閉じた。
苦笑しながらコンラッドは爪切りを続ける。自分のを切る時よりも数段丁寧に行った。
「…はい、終わったよ」
コンラッドは爪切りをティッシュの箱の中に入れてしまった。元の場所に戻しに行くのがじれったかったからだ。
速攻でユーリの片足を掴んで上に上げたものだから、ユーリは当然真っ赤になって抗議した。
が、足の指先にコンラッドの舌が触れた途端、顔色が変わった。
「や…」
ユーリの足の指先や間を、コンラッドは執拗に舐め回していく。
普通はただ気持ち悪いとしか思えないような行為の筈なのに、奇妙な快感がある。
指の付け根に生暖かい舌の先端が這い回ると、ユーリは声を上げずにはいられなかった。
それだけでなくて、足首にコンラッドの指が触れるだけで異様にユーリの胸は高鳴った。
それを見透かしたように、コンラッドが意味ありげな手つきでユーリの足を撫でる。次第に指が膝へと上がっていったが、ユーリは膝を閉じていたので、コンラッドの手は膝の裏に進んだ。
「っ…」
ユーリが息を飲んだ。
「ユーリ、足を開いて」
コンラッドの言葉に従えばより大きい快感が得られる、という事を、もう、ユーリは知ってしまっている。
単にそれだけではなく、本能的にも理性的にも、彼を拒む事が出来ない。
しかし、羞恥心からかユーリは完全に閉じた膝を開く事は出来ず、半端に足の位置をずらす程度に留めた。
別に、コンラッドはそれで構わなかった。内股に触れればそれでいい。それで後は、ユーリが自分で無意識の内に開いてくれる。
足を愛撫するばかりで、コンラッドの手は頭をもたげ始めているユーリの性器に対して、触れそうで触れない距離を保つ。
じれったさにユーリは呻き、そして耐えかねて、己の手でそれに刺激を加え始めた。
「…っ…」
ユーリは頭の何処かで、今日の自分のいやらしさを理解していた。今日はそういう気分だった。
閉じた瞼の向こうでコンラッドが呆れ返っているような気さえして、恥ずかしい。彼を煽って誘っているつもりはなかったが、そう見えてもおかしくないだろう。
だが、突然コンラッドの手がユーリの手にかぶさった。
「何っ…」
「俺にやらせて」
そう言って、そのままユーリ本人の手越しに責め立てていく。
不意打ちのように見せつけられた、ユーリが自分を慰めている光景はたまらなく淫靡だった。じっくり眺めていたかったが、結局は手を伸ばしたいという欲求がそれを上回った。
自分の眼前で涙目で吐息と嬌声をこぼすユーリを、コンラッドは心底愛おしく思う。
「今日のユーリはいやらしいね…」
「…何か…そんな気分なんだよ…いや…?」
コンラッドは首を横に振った。そういうのは大好きだ。
まだユーリが達しないうちに、コンラッドはユーリの下肢から手を離した。そのせいでユーリが露骨に失望したような表情になる。極みにやれなくて悪いと思いつつも、コンラッドとしては、今日はユーリに先に達してもらいたくなかった。ユーリが先に疲れてしまうのを避けたかった。
いつになく淫気の強いユーリを観ていて、ふとした拍子に、ある悪戯がコンラッドの脳裏に閃いた。
「ユーリ、『リム』って知ってる?」
コンラッドは寝台に上がった。突拍子もない質問にユーリは幾分か鼻白んだ様子だったが、
「知らない…何それ」
と答えた。
まあそうだろうな、と、コンラッドは思った。彼自身もユーリ位の年齢の頃には知らなかったし、、ヨザックから聞いて初めて解ったのだから。実践経験はないが。
「何かの隠語? ひょっとして…エロい言葉とか?」
「まあね。どういう意味だと思う?」
「…分かんないよ」
「じゃあ、実際にやってみせようか。その方が早いし、解りやすい」
ユーリは熟考しないで頷いた。
「でも…どうすんの?」
ユーリはコンラッドの言うままに俯せになって、腰を上げる。視線を感じて、シーツを掴んで耐える。
一体コンラッドが何をしようとしているのか、彼には想像もつかない。
指でも入れるのかとも思ったが、それはもう、やられた事がある。
なら、一体…?
「……っひ…っ!?」
明らかに指とは違うものだ。触れてきたのは、そんなのよりも柔軟なものの感触だった。
「っあ…コンラッド、何やってんだよ…っ…!」
目も眩むような快楽を得て、抗議の声に涙声が混じる。
「ば、ばか、やめっ……や…やぁ…!」
「いや? でも、ユーリのここは…いやじゃないみたいだよ?」
「っ…ひぁっ…あ…やあっ…!」
指を入れられた事は2、3回くらいあった。だが、舐められるとは思わなかった。
ユーリの手がぎゅっときつくシーツを握りしめる。肩にひどく力が入って、足が痙攣しそうになった。
「……そんなに…いや?」
コンラッドは愛撫の折々に言葉を混ぜる。
「だって…き、汚いだろ…!」
「そんな事ないよ。それでも…いや?…やめてほしい?」
「…っ…………っ……やめないで……」
嫌だった。一種の恥辱でさえあった。
それでも、全く抵抗出来なくなる程の快楽を保証する行為だった。
そのせいで、もっと奥でもっと大きい熱を感じたくなる。ただでさえ今日は普段より欲求が強いのに。
「コンラッドっ……も…我慢出来ない…入れてよ…」
「何を…?」
わざと空惚けるコンラッド。ユーリの口から言葉を引き出そうと、ユーリの足の間に手を差し入れて、そしてまた昂ぶりかけているものに指を触れさせる。
「……コンラッドの……がっ…欲しいっ…お願いだから、なあ…早く…っ…」
最後に付け加えられた言葉で、ようやくコンラッドは承諾した。
「ちょっと待ってね」
先日、ユーリから渡された代物…コンドーム。何でも、母親が気を利かせて(?)買ってきたそうな。
彼女の言う事も最もなので話し合って使う事にしたのだが、最近とんと使う機会がなかったのをいい事に、コンラッドは初回の使用時に「使い方を忘れたから手伝って」等とホラを吹いて、ユーリを赤面させて楽しんだ。
だが、今日のユーリはつけてくれないだろうから、残念ながら自分でするしかない。そうコンラッドは思ったのだが…。
「やだ…」
ユーリが呟いた。何の事かと聞く間も与えられずに、コンラッドは膝をたてて寄ってきたユーリに迫られる。
「ごめん、今日は待てないよ…」
ユーリは両手でコンラッドを押し倒すと、服を脱がせて、その上に馬乗りになった。
そんなびっくりする程の今日のユーリの積極性に、かえってコンラッドは気を良くする。肘をついて身体を少し起こして、余裕のある笑みで尋ねた。
「いいの?」
「いい、ホントに待てない」
それなら、コンラッドはそれで構わなかった。
ユーリが自分の手でコンラッドのものを導く。自分の中に。
最初の時よりもずっと、すんなりとコンラッドの身体を受け入れられるようになった事は嬉しい。
今日はやたらと欲求の強い日だなあ、と、ユーリは頭の何処かでぼんやりと考えていた。
「はぁ…う…」
熱に潤んだ黒い瞳が、コンラッドを捉える。その視線の意味を彼は良く理解していた。だが、今日はその視線に敢えて応えない事にする。
「自分で動いて…ね?」
初めてする体位だが、出来ない事もないだろう。
「ん…」
ユーリもそう思ったらしく、素直に身体を揺すり始める。試行錯誤を繰り返しながら確実に上昇していくその様はコンラッドの視界において、平生より大胆で、淫猥ですらあった。
「…っ…ユーリ、今日は特別気持ちよさそうだ……俺に、見られてるからかな?」
まさに図星だったので、ユーリは何も言えなかった。
自分がどんな表情を見せてどんな姿を晒しているかは、目の前のコンラッドの表情が、まるで鏡のように明確に知らしめてくれる。
「コンラッド…っ」
呻いて引き絞るように名を呼ばれ、コンラッドは切なさに胸が締め付けられる。
瞳を見ている内に、彼は起き上がってユーリの身体を抱いていた。
互いに相手の息遣いや声を聞き取り合う。
汗ばんだ肌の温度に背筋がぞくっとして、ユーリはそれで達しそうになる。
その波に完全に抗いきって耐え抜く気力は殆ど無くて、高く鳴いて、よりいっそう激しく頂点を求める。
やがて、コンラッドの目前でユーリは歓びに震える無防備な表情を晒した。
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ディモルフォセカをくれた君(28)