どうしようもない
……例えば、真正面からその胸板に指を這わせて、浅黒い首筋に吸いついたら。
出動後、隣のシャワーブースで暢気に鼻唄を歌っている相棒の裸体を思い描きながら、バーナビーは埒も品も無い想像を巡らせた。最近、習慣になりつつある行為の一つだ。
「あー、しっかし今日はマジ疲れたなー。この後どうすっかなあ。晩飯は、外で食おうか家で食おうか……」
「……」
「……っておい、少しは返事くらいしろよ!」
「……ひょっとして、僕に言ってるんですか。それなら、そう言ってくれないと解りませんよ」
無関心という語句に返事を載せて返しながら、バーナビーは涼しい顔で、前に見かけた虎徹のペニスの形を思い返した。ああ、あの、虎徹のものに触りたい。握りたい。舐めたい。精液を飲めるかは解らないけれど、そうすることを想像すると、欲望が募る。
「普通解るだろ! 今は俺とお前しかいないんだから!」
「それで、何ですか」
「何って……お前、これからどうすんのかなって思ってよ」
「どうしてそんな事、貴方に話さなくてはならないんですか」
「かっわいくねーなー。いいだろ、聞いたって!」
薄い壁の向こうから、虎徹が不満げに言い放つ。温い水を頭から被りながら、バーナビーの頭の中で、この後の予定が組み上がる。帰路に着いてから、自宅のベッドで自慰に耽るまで。
「夕食は家で摂ります」
「ふうん、あっそ! 俺も今夜は、うちで適当に食おうかなあ」
シャワールームの隅から隅まで響き渡りそうな虎徹の大声が響き、その後はシャワーの水音が二つ流れるだけとなる。バーナビーは、自分の額に濡れて張り付いた髪を掻き上げた。今日の事件は火災現場。斎藤ご自慢のパワードスーツが遮断しうる熱量にも限界というものがあり、ひどく汗をかかされた。会社のシャワーブースに備え付けのシャンプーはあまり好きではないのだが、このまま髪を洗わないで帰る気にもなれなかった。
「……おい、バニーちゃんよお」
いきなり虎徹にブースのカーテンを開け放たれ、バーナビーは振り向いて背後の彼を睨んだ。
「ちょっと、勝手に開けないで下さいよ」
「んな事、別にどうでもいいだろ。そ・れ・よ・り! 前から言おうと思ってたんだけどよ、お前さ、少しでも俺とうまくやっていこうっていう気はないわけ? 一体何なんだよ、その態度!」
「何なのか訊きたいのはこちらの方ですよ。いきなり何なんですか。何が言いたいんです、貴方は」
シャワールーム最大の欠点は、眼鏡をかけたままでは入れないという事だ。裸眼では、虎徹の裸がいまいちよく見えない。
三十路の半ばを過ぎた、冴えないこの中年の何処に興奮する要素があるのか、言葉に表して説明する事は難しい。男の裸に欲情する事、後ろを使って自慰をする事、他人に抱かれたいと思う事。バーナビーにとってそれら全部、虎徹と出会ってから初めて覚えた事柄なのだ。そして今でも、彼以外と寝たいとは思わない。そんなのは、想像するだに面倒だ。しかしそれでいて、彼が現在ベッドインしたいと思っている相手は『子持ちの同僚男性』という、彼が知る中でもかなり面倒そうな区分に入っている。訳が解らない。
「俺は、もっとこう、お互いに歩み寄ろうって言ってんだよ。だから例えば、夜に一緒にどっかに飲みに行って、色々話したりさ……」
「馬鹿馬鹿しい。発想が古いんですよ、貴方は」
「んだと!?」
虎徹と食事に行くなんてごめんだ。どうせ趣味嗜好が合わず、文句を言い合う事になるのが目に見えている。
そんな事より彼とセックスしたい。あの顎髭に触れられる距離まで近づいて、唇にキスしたい。気持ちいいのかどうかは知らない。実際にやったら興醒めするのかもしれない。でも、やってみなければ解らないことだ。
「……お前さあ……ほんのちょびっとでも、俺に興味とかないわけ? 仕事に無関係なことには、全然興味ありませーんってか?」
いつもながら、五月蠅い男だとバーナビーは思った。虎徹に興味はないのか? ある、と言ったらやらせてくれるのか。
「……解りましたよ。行けばいいんでしょう」
「へ? なに?」
「食事、一緒に行けばいいんでしょう。だから、カーテン閉めてくれませんか。髪を洗いたいんです」
「え、まじ?」
バーナビーはシャワーカーテンを閉めた。カーテンの向こうで、虎徹が困惑しながらも、いそいそと隣のブースに戻っていく気配を感じる。やっと大人しくなった。
「んじゃ、俺も髪洗おうっと……で、どこ行く?」
「おじさんが決めて下さいよ。そちらが誘ったんでしょう」
「えー……いいけど、文句言うなよ?」
「言いませんよ。お店の方には」
「ほんっと可愛くねえな……」
髪を洗いながら今夜の予定を頭の中で組み直し、ふと、バーナビーは気づいた。
出動直後で、あれとあれがあって、こっちの体調は悪くなく、そしてものすごく虎徹が欲しい気分。
「……おじさん。やっぱり、外で食べるのはなしでいいですか」
「は?」
「今日はそういう気分じゃなくて……疲れたので、まっすぐ家に帰りたいんです」
「んじゃ……なんか買って、お前の家で食う?」
「それで構いませんけど、僕の家を汚さないで下さいね」
「へぇい」
性欲を表に出さない事は容易い。そうでなければ、この状況下では仕事にならない。
でも、抑え付けて消し去る事は難しい。そんな事も知らないほど初心でもなかろうに、この男は馬鹿だ。


バーナビーは携帯の画面を閉じて、パソコンの脇に置いた。手首のPDAさえ付けていれば、問題はないだろう。サイドテーブルの下に落ちていたハンチング帽を拾い、軽く手で埃を払ってテーブルに載せた。
すると、開け放したベッドルームの方から激しい物音と声がしたので、バーナビーは物音のした方へと向かった。
「……何やってるんです?」
ハンチング帽の持ち主が、ベッドの上に下半身だけ載せ、上半身は床へとずり落ちた格好でうんうん呻いていた。頭をしたたか床にぶつけたのだろう、痛みに顔を顰めながら、首だけ上げてバーナビーを睨んでくる。首だけしか上げられないのは、彼の両手がロープで拘束されている為だ。足の方はというと、足首に手錠が嵌められている。
「何なんだよ、これは……」
「何って、手錠とロープですが」
「そういう事じゃねぇよ! なんで、お前んちで晩飯食おうって話だったのが、いつの間にかこんな事になってんだって言いてぇの!」
「さあ? 多分、おじさんのせいだと思います」
「はあ!? 訳分かんねえし」
「理解出来なくても、別にいいでしょう。おじさんの希望通り、食事には付き合ったじゃないですか」
バーナビーは虎徹の胸倉を掴んで彼を引き起こし、ベッドに仰向けに寝かせた。ジャケットはハンガーにかけたし、玄関の施錠は確認したし、携帯はマナーモード。冷蔵庫に切らしていたペリエはさっき注文した。
「で? これは……何なんだよ。悪戯にしちゃ度が過ぎてるし、なんか……俺に対して、不満でもあんのかよ」
「へえ、自己分析は良く出来るんですね。意外です」
「嫌味はいいから! 説明しろよ、一体何がしたいんだよお前は!?」
リンチを受けるとでも考えているのか、虎徹が若干警戒心を向けてくる。その緊張した表情は悪くないと思う。
「そうですね。あんまり時間もありませんし……貴方に対しては、常日頃から不満も鬱憤も散々感じています。けれど、それとこれとは無関係ですよ。いくら何でも、貴方に手を上げたいとまで思った事はありません」
「そ、そうか……ならとりあえず、このロープと手錠外せよ。無関係だって言うんなら」
「無理です。その手錠には、鍵がないんですよ。前に道端で拾ったものなので」
「はあ!? なっ、ちょ……くっ、って、あー……くそっ! 外れねえ!」
「そう簡単に外れる訳ないでしょう。その手錠、警察の支給品と同じ物ですよ。ロープは開発部から貰ってきました。新開発の特殊化学繊維で出来ているそうで、頑丈さにかけては斎藤さんの保証付きです」
「何つうもん作ってくれたんだよ、あの人は……」
「心配しなくても、後で僕が能力使って外してあげますよ。最も、僕も貴方もまだ、能力は回復していないでしょうけれど……」
一度虎徹の身体をひっくり返し、彼のPDAを外してエンドテーブルの上に置いた。万一にでも、これから起こる事の最中に故障したらまずいだろう。音が鳴るように設定されている事を確認してから、バーナビーは眼鏡を外してエンドテーブルの上の引き出しに入れた。それから下の引き出しを開いて、必要なものを取り出した。
「……何だよそれ」
「スポーツタオルですが」
「んなの、見りゃ解る。タオルと一緒の、そっちは何だよ」
「いちいち五月蠅い人だな……やもめ暮らしが長すぎて、コンドームがどんなものかも忘れたって言うんですか。こっちはローション。はい、説明は以上です」
バーナビーは一方的に話を打ち切り、ローションのボトルをベッドの下に立てて置き、その上にコンドームを載せておいた。そうして、虎徹のスラックスのベルトを外す。ネクタイと、そしてベストとワイシャツのボタンも全て外した。
「なっ……ちょ、ちょーっ!? バニー! お前、一体何しようとしてんだよ! ふざっけんなよ!」
己に迫っている危機の何たるかに気づいた虎徹が、顔面蒼白でばたばたと暴れ始めた。バーナビーが彼の両脚の上に跨がっているので、上半身だけで必死で起き上がろうとしているが、バーナビーに片手で胸を押されれば、その上半身もあっさり寝台に沈み込む。
「おじさん、ちょっと黙っていてくれませんか?」
「アホか、こんな事されて黙ってられるか! っつうか……お前、こういう趣味だったのかよ」
「さあ……現在こうしているって事は、そうなんじゃないですか。僕の趣味なんて、貴方にとってはどうでもいい事でしょう」
「よくねえよ。この状況で、どうやったらそんな事言えるんだよ……って、おいいいい!?」
ベルトを外したバーナビーが、スラックスと下着を引き下ろし、露わになった虎徹の臀部の下にスポーツタオルを敷く。それから彼は、何ら躊躇う事もなく、虎徹のペニスを手に取った。
「なあ……バニーちゃんよ。別に俺は、お前がゲイでもバイでも構わねえよ……んな事、この際気にしねえ。でも、俺はそうじゃねえんだよ。俺は違うんだ。だから、やめろよ。なあ」
「つまり、他の、嗜好の合致する男を見つけろと言いたいんですか」
虎徹のペニスを手で扱きながら、バーナビーが彼の表情を見る。
「そうだよ。普通はそうするだろ」
「そうですね。だから、こうしているんですよ。僕の嗜好に合致しているのは貴方なんです。だから、やめません」
「はあ!? おまっ……だから、俺は違うんだって……うわっ!?」
虎徹とこれ以上話をする気にもなれず、バーナビーは彼のペニスをしゃぶった。役立たずになるほど酒を飲ませてはいない筈だが、何分、実際にフェラチオをするのは初めてで、順調にはいかない。口腔内での滑りの悪さに、バーナビーはすぐに唇を離した。ローションを使って手で扱いた方が楽かとも思ったが、咥えた途端に虎徹の五月蠅い口が随分大人しくなったので、とりあえずは、そのまま口で勃起させる方針で進めていく。
予想以上に抵抗感がない事に、誰よりもバーナビー自身が驚いていた。こんな中年のペニスを自ら進んで咥えるなんて、自分でもどうかしていると思う。反応を測る為に咥えながら虎徹の顔を見上げると、いたたまれない表情をした虎徹と視線が合った。
勃起しつつある辺り、虎徹の方も、全く何も感じていない訳ではないのだろう。虎徹の表情の変化から、彼がどうすれば感じるのかは容易に見て取れた。
「バニー、嫌だ、こういうのだけはっ……んっ、ホントに……やめろって……!」
身を捩って抵抗する虎徹の態度に痺れを切らしたバーナビーは、自分の指を舐めた。そうして暴れる虎徹を押さえ付けて、尻の割れ目に手を突っ込み、彼の後ろの孔に指を差し入れた。
「ばっ……おま、無理! それはぜってぇ無理だから!」
「指くらいでぎゃあぎゃあ騒がないで下さいよ。まだ一本しか入れてないでしょう」
「一本でも無理だっつうの! ほんとにやめろって! これ以上されたら俺、切れ痔になっちゃう!」
「心配しなくても、指以外のものは入れません。だから大人しくしていて下さい」
「出来るかぁっ!! って……ん? それで行くと、ひょっとして、俺のバックバージンはセーフってこと? いや、もうある意味既にアウトだけど……お前がそっちなの?」
「こちらがいいんですか?」
バーナビーが指を一層差し込んで内を探ると、虎徹が引きつったような悲鳴を上げた。
「無理……ほんと無理! つうか、前だけでもそれはそれで良くねぇ!」
「いいじゃないですか、別に。減るものでもないでしょう……いや、一応減りはするのか」
「お前でも、そういう下品なジョーク言うんだな……つうか、お前何してんの。そっちに用はねえんだろ。なら、早く抜けよ。頼むからさあ……痛ぇんだよ、ほんとに……」
「おじさんにこちらを使った経験があるんでしたら、こちらを使って勃たせた方が早いかなと思って」
「んなもんねえよ!!」
「その様ですね」
このまま続け、虎徹に新境地を拓いてやるのも一興ではあった。が、その為には時間があまりないので、この程度でやめておく事にする。バーナビーが指を引き抜くと、虎徹はそれだけで安堵したのか、ふうと大きく溜息をついた。
ぐったりした身体を仰向けにして、再びフェラチオを始める。散々喚いて暴れていた割に、虎徹のペニスは全く萎えていなかった。
「……実を言うと、もう役立たずになっているという可能性も考えていたんですが、ご健勝のようで」
「……いっつも何考えてんだろうなコイツ、と思ってたら、そんな事考えてたのか……お前、どうかしてるぜ……」
「気に入りませんか」
「すっごく」
「どうしてほしいか言ってくれれば、参考にしますが……」
「そういう意味じゃねえよ。けど、今はとっとと家に帰りてえ……」
「却下します。早く帰りたいんでしたら、おじさんは黙ってこのまま横になってて下さい。それでいいですから。後は僕の方で全部、こちらの好きなようにさせていただきますし」
「もう好きにされてるよ! 何から何までお前の好き放題じゃねえか、畜生……メシになんて、誘うんじゃなかったよ……」
本当にそうだな、とバーナビーは思った。こちらの事なんて知りもしないし、どうせ好きでもないくせに、食事に誘うなんて珍奇な真似に走った結果がこれなのだ。声をかけるならロックバイソンにすべきだった。昔からの付き合いだというし、さぞ仲が良いのだろう。せいぜい、彼の前でだらだらとこちらの愚痴でも零していれば良かったのに。
そんな事をつらつらと考えていると、次第に腹が立ってきて、バーナビーは早々に事を済ませる事にした。服を全て脱ぎ、床に置いていたコンドームとローションのボトルを取って、コンドームの袋を咥えて片手で開ける。それを虎徹のペニスに装着してから、ローションを手に少し取り、自分で後ろの孔に塗ってそこを適当に解していく。
そうしている最中に虎徹と目が合い、少し気まずい感じを覚えたが、開き直って続けた。土壇場になって、虎徹がこんな自分の姿を見てどう思うのかが気になり始めている。馬鹿みたいな話だ。
「バニー……やっぱりやめようぜ。いっぺんでもやっちまったら、何かもう、取り返しつかねえ気がすんだよ」
「んっ……嫌です、よ……何ですか。さっきから、随分大人しいなと思ったら……一度くらいならいいかって、諦め始めていたんですか……?」
「そうだよ……だってお前、どうしたってやめる気ないんだろ」
「ええ」
「……何で俺なんだよ……同じ趣味のやつにしろよ……」
「貴方がいいんです」
「何で……」
その問いに、バーナビーは自分でもよく分からない曖昧な笑みだけを返し、そして、虎徹のものを己の後孔に挿入させた。
この程度の大きさのものは、今までにだって入れた事はあるのに、やはり今までとは勝手が異なる。少し痛いくらいなら我慢する事にして、腰を沈めていく。
虎徹が先程言っていた、バックバージンとかいう語句。その例えで言ったら、今、自分はまさしく処女を失った事になるのだろうか。それとも、初めてここに異物を挿入した時こそがそれなのか。判りやすい判断基準はないけれど、別に自分は男なのだから、虎徹の方も、深く考えるのはよせばいいのにと思った。バーナビーの方は深く考えていない。どれだけ深く考え、思い悩んでも、虎徹にこんなにも欲情する理由がさっぱり見つからなかったからだ。
ただ、この男が欲しい。抱きたい。抱かれたい。その腕も胸も顔も、体の全てを支配してやりたい。他の事など期待しないから、こうして共にいてくれさえすればいいのだ。こんな、鬱陶しいだけの男に対して、そんな事を考えている。
「ねえ、おじさん……僕のこと、どう思いますか。正直に言ってみて下さい」
腰を揺すりながらバーナビーがそう問いかけても、虎徹はぎゅっと目を閉じているだけだった。事が終わるまで、そうして耐えているつもりなのか。何も聞きたくないとばかりに自分の頭の下にある枕に片耳を押しつけているが、もう一方の耳が露わになるので無意味だろう。
「聞こえているんでしょう……返事して下さいよ」
バーナビーが彼の胸に手を這わせ、黒ずんだ胸の頂を摘むと、虎徹は弾かれたように頭を上げた。
「ちょっ……やめろって、触んな!」
心底嫌がっているようだったが、一切無視してバーナビーはそこを指で弄る。もっと苛めてやりたい。この男のプライドをへし折って、泣いて懇願する姿を引きずり出したい。時間と仕事さえ許せばそうしたいのに、まったく、ヒーローという仕事も難儀なものだ。
「こんな事して……僕のこと、変態だと思いますか。なら、そう言っていいんですよ」
「バニー……お前、どうしちまったんだよ」
「どうもこうも、ありませんよ。言っておきますが、別に酔ったりしてはいませんからね……僕、今日は一滴も飲んでいないんです」
バーナビーがそう言うと、虎徹が大きく目を見開いた。何をそんなに驚く事があるのか、理解出来ない。食事の最中、バーナビーが酒に口をつける振りをしながら、虎徹の様子を伺っていたことくらい、少し注意していれば判る事だっただろうに、一人で何を浮かれていたのやら。
もう、とうにハンドレッドパワーが回復する時間は過ぎていた。それでもなお、虎徹が能力を発動させる気配はない。分かっていたのだ。この男が、誰かを救う為以外に能力を使う事はないと。分かっていたからこうした。この男が自分とすんなり寝てくれる筈もないと分かっていたから、こうしたのだ。
「おじさん……おじさん……」
おじさん。おじさん。繰り返しそう呼びながら、バーナビーは己の思うがままに快楽を追求していく。見下ろした自分の視界の中で、虎徹の厚い胸が上下する。虎徹のペニスで、自分が感じるところを好きなように刺激するのはとても気持ち良かった。今まで自分では味わえなかったほど。
このままいって、もしも顔に精液をぶちまけてやったら、虎徹はどんな反応をするだろうか。流石に逆上されて、面倒な事態になりそうだ。こんな深夜に、マンションの下階から警備員が駆けつけてくるような騒ぎになるのは嫌だ。事が済んだら朝まで寝たい。
だから、胸か腹にしておこうか。


虎徹の方がいつ達したのかは知らない。何せ、終いには彼の反応にまで気を払っている余裕がなかったのだから。


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