FE烈火。パソ子のファイルを漁っていたら出てきました。
半端なところで切れているんですが、何だか消すには惜しいので、ここに放り込んでおきます。
それは昔、ある寒い寒い冬の季節の事でした。
その日はものすごい吹雪で、山の中は真っ白。凍り付くような冷たい風が全身に叩きつけられるような荒天でした。
そんな中、吹雪に見舞われた二人の青年が、山中の廃屋へとたどり着きました。
「まったく、本当にひどい天気だ…大丈夫かい、ヘクトル?」
「ああ、なんとかな…しかし、この天気じゃあ、今夜中には下山出来そうにねえな」
「そうだね」
「ここで一晩明かすか。…おっ、エリウッド、囲炉裏があるぜ」
「薪はないかな。あったらそれで火を点けよう」
二人は廃屋を探し回って薪を見つけると、囲炉裏で火を起こしました。
エリウッドはフェレ村の村長の息子で、ヘクトルはフェレ村とはこの山を一つ隔てて向こうにあるオスティア村の村長の弟です。
二人は無二の親友で、そして近隣の村々が一体となって組織されている青年団の一員です。今夜は、二人で山の見回りをした帰りでした。
「すまない、ヘクトル。僕がもたもたしていたから、帰りが遅れてしまった」
「お前はお前なりに気になる事があったんだろ。まあぐるぐる回っちまったけど、結果的には腐った大木が見つかって、良かったさ。天気のいい日に、また切り倒しに来ようぜ。あれは放っておいたら危ないからな」
「そうだね。…しかし、今頃ウーゼル様は君を心配なさっているのだろうな…申し訳ないよ」
「これっぽっちの事でどうにかなる俺じゃないって、兄貴は解ってるだろ。心配するどころか、腹立ててるんじゃねえか?」
「またそんな事を言って…」
エリウッドは苦笑しました。
「そういえばエリウッド…聞いたか? 雪女の噂」
「ああ…噂だけは。最近、この辺りの村や山で目撃されているそうだけれど、僕たちの村で目撃されたって話は聞かないね」
「それがな…今朝、セーラのヤツが見た見たーって騒いでたんだよ。まあ、単なる見間違いって可能性は否定できないが、もしいたとすれば、何者なんだろうな」
「さあ…僕には分からないな。それよりヘクトル、君がそんなにセーラと親しかったとは知らなかったなあ。いいのかな、君にはフロリーナという女性がいるのに」
エリウッドはからかうような物言いを楽しんで、にこにこ笑いながらそう言いました。
「馬鹿、何言ってんだよ。フロリーナの所に行くと、よく鉢合わせるだけだっての」
ヘクトルの方はそう言うと、反撃に出ました。
「そういうお前の方こそ、どうなんだ?」
「どういう意味だい?」
「いやな…お前、村の女たちにキャーキャー言われてる割に、それらしい話って全然聞かないだろ? そういう素振り自体、まったく見せないしな。親友の俺に隠してるって事もないだろうし」
「うん…そういう事はまだ、僕には考えられなくてね」
しかし、エリウッドの父エルバートは既にこの世を去っています。
母のエレノアが、口には出さねど息子の結婚を望んでいる事は、エリウッドもきちんと気づいていました。
…それから、どれくらいの時間が経ったのでしょうか。
色々な話をするうち、エリウッドはいつの間にか、床に転がって寝こけてしまっていました。囲炉裏の火は既に消え、微かな煙が白い糸の様に立ち上っています。
その向こうにヘクトルがいました。壁に寄りかかって眠りこみ、イビキをかいています。
そして、そのヘクトルの脇に、誰かが立っていました。
暗い廃屋の中に立っているのは、長い髪をした女性でした。透き通るような白い肌をしており、華奢な体つきです。
どことなく浮世離れした容貌と雰囲気に、エリウッドは息を飲みました。何故か体が全く動かず、何かの夢を見ているかのような錯覚を覚えていました。
女性は少しかがんで、ヘクトルの顔を覗き込みました。
するとどうでしょう、みるみるうちにヘクトルの体が雪に覆われていきます。エリウッドは声を上げる事も出来ず、親友が目の前で雪だるまになっていく様を見てしまいました。
ヘクトルを雪だるまにし終えると、女性はゆっくりとエリウッドの方を見ました。女性とエリウッドの視線がばちっ、と合います。
このままでは、自分もヘクトル同様雪だるまにされてしまうだろう。エリウッドは頭ではそう理解していたのですが、体が言う事を聞きません。
女性は横たわったエリウッドの前に歩み寄ると、そっと顔を覗き込んできました。
とても美しい女性でした。まだ少女と言っても良いような年齢で、儚げな面差しをしています。赤い瞳が印象的で、エリウッドの目は吸い寄せられるようにそれを見つめていました。
…このまま自分はここで死ぬのだろう、エリウッドはそう感じました。
ですがその時、少女は突然頬を真っ赤にして立ち上がりました。そしてエリウッドに何もせずに廃屋の戸を開き、吹雪の中へと消え去ってしまいました。
その直後に、エリウッドは起き上がる事が出来ました。しかし彼は今の自分の体験がなかなか信じられず、呆然としていました。
少女が開け放していった戸口を見ると、指輪が落ちていました。
エリウッドは何となくそれを拾い上げると、寒風吹きすさぶ雪山をしばらく見つめていました。
当サイトに封印・烈火コンテンツがあった名残ですね。