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暁現代パロ(8):俺とお前とあの野郎・1

※鷺←鴉が前提。
 
続き
 
ちょうど今ぐらいが、うちの旅館では一番暇な時間帯にあたる。
その頃に俺がエントランス辺りに出てくれば、俺に会いに来たあいつと鉢合わせる。
「ネサラ」
「よう、リュシオン」
リュシオンは俺の幼なじみだ。さして近所に住んでいる訳でもないが、こいつの方がガキの頃に家族に連れられてうちにやって来たのがきっかけで、こうして長い付き合いを続けている。
リュシオンの実家は声楽の名門で、父親も兄貴もプロの声楽家だ。リュシオン自身も今でこそ学生の身だから月に一、二回の公演程度しかしていないが、高校を卒業すれば即プロとして活動し始める事になっている。
「今日は随分早いな。部活はどうした?」
「もう終わった」
こいつはボディビル部に所属しているらしい。そう本人が言っているんだから、本当なんだろう。
リュシオンがボディビル部だなんて、何度聞いても冗談みたいな話だ。かれこれ十年以上の付き合いになるが、その間、一度もリュシオンは俺に力比べで勝ったことがない。成長に応じて身長だけはそれなりに伸びたが、体つきはずっと細いままだ。
「そうだ、聞いてくれネサラ! 今日測ったら、握力がようやく25kgに達したのだ! すごいだろう」
そりゃあ、ある意味すごい話だ。握力25kgっていったら…小学生以下じゃないか。
「…とりあえず、ここで長話もなんだ。中に入れよ。今日は風呂入っていくんだろ?」
「ああ、そのつもりだ」
うちの旅館は通常の宿泊の他に、温泉だけの利用も可能にしている。リュシオンも後者の一人で、週に一度か二度こうして俺に会いに来て、温泉に浸かっていく。最もこいつの場合は特別で、金は取らない事にしているが。
脱衣所の出入り口までついてきた俺に、リュシオンは振り返ってこう訊いてきた。
「何だネサラ、お前も入るのか?」
「まあな。いいだろ?」
「まあ、お前がそう言うのなら…」
今日の数少ない宿泊客は全てチェックイン済だし、オーナーの俺には本来、旅館の仕事は何もない。
それでも、ときたま出てきて客に挨拶したり、エントランスの掃除をしたりはする。単に人を雇う余裕がないもんで。
脱衣所はガラガラで、脱衣籠を見る限りは誰も入浴していない様だった。
「今日は客が少ないのか?」
「ああ、三人しかいない」
三人きりとは何とも切ない数字だが、うちの旅館の経営状況を考えれば、宿泊客があるだけまだいい方だと言える。
リュシオンはさっさと服を脱いで裸になっていく。
こいつが中学生だった頃、一度仲がこじれて絶交寸前までいった事があった。一方的に絶交を申し渡したのはリュシオンの方だ。原因は、俺がこいつ曰く『変な事』をこいつにしたせいである。
なのでそれ以降、リュシオンは俺と一緒に入るのを嫌がるようになった。しかしどうやら高校でボディビル部に入った事で、それなりの自信がついたらしい。握力25kgにそこまで自信を持てるとはね。ま、いいけどね。
「最近、だんだん腕の方にも筋肉がついてきたのだ」
「ふーん」
そう言われても、俺にはまるで違いが分からない。
リュシオンの裸を俺はなるたけ凝視しない様にしつつ、ちゃーんと見ていた。半分くらいはいやらしい意味で、もう半分は心配する意味で。ボディビル部だか何だか知らないが、いつか大怪我するんじゃないかと心配しているこっちの身にもなってほしいもんだ。

続きます。
ちなみにボディビル部の部長はアイクです。

ファイアーエムブレム::暁現代パロ | 2007.07.03 21:53

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