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暁現代パロ(17):僕とあなたとそれ以外・4

※スクライです。

続き

今晩のグレイル一家の夕食は、焼肉である。
卓袱台のど真ん中に鎮座してじゅうじゅうと肉や野菜を焼いているホットプレートは、家庭用にしては少し大きい。その上で焼かれている肉は少しどころかとても多いが、その肉をもっさもっさとアイクは食べていた。
その隣に座っているセネリオは、アイクとは対照的に、野菜だけを時々取って食べている。
そして、そのアイクを挟んでセネリオと反対側に座っているのが、客人のライだった。
「…どうした、ライ? 箸が止まってるぞ。食欲がないのか?」
「いや…なんて言うかさ、家でもそうなんじゃないかと思ってたけど…お前の食いっぷりって、半端じゃないな。やっぱり」
「そうか? ボーレも確かこのくらい食うよな。そうじゃなかったか、ミスト?」
「お兄ちゃんほどには食べないわよ…」
ミストはライの隣で、苦笑しながらそう答えた。
「でも、お兄ちゃんってライさんとほんと仲いいね。いつ知り合ったの?」
「ライとは大会で知り合った」
すると、ワユが少し目を丸くしてこう言う。
「あれ、でも確かライさん、剣道はやらないって言ってなかった?」
「ああ、違うんだ。俺は選手じゃなくて、観客として大会に行ったんだよ。うちの学校が出場してたんで。そこでアイクと知り合ったっていう訳で…」
「ああ、なるほど」
その時、沈黙していたセネリオがふと壁にかかった時計を見て言った。
「…あの時計、ひょっとして止まってませんか?」
「えっ?」
ミストは壁の時計を見上げ、それから他の時計を探して部屋を見回し、電話の脇に置いてある置時計を見つけた。
「そうだね、あの時計止まってる。もう7時半過ぎてるもの」
「えっ…本当か。まずいな…」
ライが再び箸を止めた。
「なんだ、どうかしたのか? 寮の門限に間に合わんとかか?」
「いや。うちの寮、門限は実質ないんだ。夜中によく訓練やるから。でもなあ、訓練以外で門限過ぎそうっていうんなら、寮の管理室に連絡しておいた方がよかったな…」
「なら、電話したらどうだ? うちの貸すぞ」
「そうだな…お言葉に甘えて借りようかな。電話借りるよ」
「どうぞ」
ライはミストにも断った後に一旦箸を置いて席を立つと、すぐ近くの電話機の前に移動し、畳の上に立て膝ついて受話器を取り、管理室の電話番号を思い出そうと記憶を探った。
「そろそろ次のお肉焼こうか。わたし持ってくるね」
ミストが台所に向かう。セネリオが取り箸を使って灼けた肉をプレートの端に退けていくのを見ながら、ライは何とか電話番号の最後を思い出してボタンを押した。
ライとアイクはそんなに長い付き合いではなく、まだ知り合って数ヶ月というところだ。学校も違うので会う機会が多い訳でもないが、たまにばったり行き会わせることもある。今日はちょうどそんな日曜日だった。
「…あ、もしもし。俺だけど」
『ライか?』
「その声…ケジダか? 今晩の当直はお前か。お疲れさん」
『ああ。お前、今外出先からかけてるのか?』
「ああ。ちょっと帰りが遅くなりそうなんで、一応電話したんだ」
『そうか。あ、そういえばさっき、スクリミルがお前のことを探してたぞ』
「スクリミルが?」
『ああ』
スクリミルと聞いて、ライは何だか嫌な予感がしないでもなかった。
ちょうどその時、ミストが冷蔵庫から持ってきた肉をプレートに入れた。だがどうやら冷蔵庫の中で凍りついてしまっていたらしく、油が激しく跳ねて四方に飛び散り、ライの手にまでかかりそうになった。
慌ててミスト達が卓袱台の掃除にかかる中、ふとライは電話機にも油が散っているのに気付いた。手招きでミストを呼び、指を指してその事を知らせる。
『ライ、どうした? 今何かそっちで悲鳴がしなかったか』
「いや、大した事じゃないんだ」
『…あ、話をすれば来た。おーい、スクリミル』
わざわざ呼ばなくてもいいものを、ケジダは電話の向こうで律儀にスクリミルを呼びつけた。何だ、というスクリミルの声が微かに聞こえたが、他は何を言っているのか分からない。しかしすぐに、荒々しい足音が大きくなってきて、ライは大声に備えて受話器から耳を少し離した。
悲劇が起こったのはその時だった。
電話機を拭いていたミストが、誤ってスピーカー機能のボタンを押してしまったのである。ぽちっ、と。
すぐ次の瞬間、電話のスピーカーを通して食卓に大声が響き渡った。
『ライ!! おまえ、帰るのが遅いぞ! 今どこにいるのだ、俺を放って一体何をしている!! 早く帰れ、俺は今おまえとやりたい気分なのだ!』
ライはがちゃんと電話を切った。
…辺りに沈黙が漂った。
スピーカーからツー、ツー、ツー…という音が聞こえる中、ライはただただ恥ずかしくて顔を上げられなかった。
「…なあ、ライ」
アイクが不意に口を開いたので、躊躇いがちにライが彼の方を見る。するとアイクはけろりとした表情で、
「やるって、何をだ?」
と、訊いてきたのだった。


ライが寮に到着したのは十時過ぎだった。
アイクの家を出たのはもっと早かったのだが、寮に着くまでに色々と寄り道してきたからである。この時間ならもう、スクリミルも部屋に引っ込んでいることだろう。
無論、ライはスクリミルの無恥な発言には腹を立てていた。だが時間を潰しているうち、その怒りは諦めに変わった。とりあえず明日一言注意すればいいだろう…言って聞くとは思えないが。
当直室のケジダに一言声をかけて二階に上がる。ケジダは電話の件には一切触れなかった。こんな出来事は初めてではないから、彼もあまり意に介していないのだろう…この寮では自分たちの事が周知の事実になっている、そのことがライには何だか悲しかった。
人気のない廊下を、なるべく足音を立てずに歩いて自分の部屋に向かう。鍵を開けようとしたその時、二つ隣のスクリミルの部屋のドアがばたりと開き、中からスクリミル当人が出てきた。
またもや嫌な予感がした。
「お、おやすみ」
と言って自分の部屋に引っ込もうとしたライだったが、部屋の中からドアを閉めようとした寸前スクリミルの手足が割って入り、強い力でドアを開いた。純粋な力比べでは、ライはスクリミルに絶対に勝てなかった。
「ちょっ…おい!」
無言でずいっと中に入ってきたスクリミルは、覆い被さるようにライを押し倒し、二人はばたーんと床の上に倒れた。後頭部を思いっきり床に打ち付けたライだったが、絨毯敷きなのでそれ程痛くはなかった。
「おい、スクリミル、今夜は駄目だぞ。絶対やらないからな。……スクリミル?」
自分の上に重い体を預けて覆い被さったまま、スクリミルは何故か無言だった。奇妙な態度にライは戸惑い、体を起こそうとしたが、とにかく重くてどうしようもない。
仰向けになったまま、一体こいつはどうしたのだろうとライが訝しんでいると、しばらくしてスクリミルが突然口を開いた。
「…やはり、お前がいないとつまらん」
「…変な事言う奴だな。毎日顔付き合わせてるだろ? 今日一日俺がいないくらいで、なんだよ。せっかく一日空いてたんだろう? 羽伸ばせば良かったのに」
「…お前がいないと、せっかくの休みもつまらん」
「…仕方ない奴だな…」
「お前が今日どこに行っていたのか知らんが、今度は俺も連れて行け」
「いや、それはちょっと…」

この後結局二人は…ごにょごにょ。

ちなみに夕食のメンバーは、
 アイク
 ミスト
 セネリオ
 ワユ
 ライ
です。
グレイルは近所のおっさん方と飲みに行きました。
ティアマトさんは元々同居していません。
ライの学校には結構色々変わったところがあるのですが、説明が面倒なので省略します(をい)。

ファイアーエムブレム::暁現代パロ | 2007.10.21 23:39 | comment(0)

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