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暁現代パロ(15):俺と姉貴と父と義父・7

6の続き。
 
続き
 
「私、結婚しようと思います」
父さんがそんな事を言い出したのは、ミカヤが大学に合格した直後のことだった。
俺の思考回路は驚きのあまり急停止し、夕飯のおかずを箸の先から取り落としてしまった。
「…父さん、付き合ってる人、いたのか?」
「ええ、3ヶ月ほど前から。折りを見て話そうかとは思っていたのですが」
「…」
俺は衝撃を受けたが、それ以上に、この父さんに結婚したいとまで思わせる程目をつけられた相手に同情したくなった。
「相手はどんな人ですか?」
俺の隣に座るミカヤがそう訊くと、父さんは恥ずかしがる事もなく質問に答えていく。
「そうですね…生真面目な人ですね。私よりかなり年下です」
年下か…せめて三十路を過ぎている事を祈る。まだ20代の若い身空で父さんみたいな男に引っ掛かるなんて、あんまり不憫じゃないか。いや、若いからこそ引っ掛かったのかもしれないが。
「あ、でも、言っておきますけれど、事実婚ですから」
「えっ? 籍を入れないんですか、どうして?」
ミカヤだけでなく俺も目を丸くした。すると、父さんは困ったような表情になった。
「相手の人は、男性なのですよ」
…良かった。吸い物を嚥下しておいて良かった。そうでなければ噴き出してた。
父さんにそういう趣味があるとは知らなかったが、何しろ俺にとっては全く未知のことで、何とコメントしたらいいのか解らない。
だが言葉を失った俺とは真逆に、ミカヤは嬉しそうに声を上げた。
「男の人なんですか!?」
「ええ、職場が同じ会社でしてね。同期の中では群を抜いて仕事が出来る人だと聞いています」
…ミカヤ。何でそんなに嬉しそうなんだ…?
「写真ありますか?」
「写真はありませんが、顔はいいですよ」
「身長は?」
「私より高いです」
「ご両親は?」
「親兄弟親戚その他は一切いないそうです」
「趣味は?」
「趣味は特にないそうで…仕事一筋みたいです」
「それじゃあ、ある程度貯金があるんでしょうね」
「そうでしょうね」
「家事の方は?」
「一通り出来ますよ。手料理を振る舞ってもらった事もあります」
するとミカヤは俺の手を掴み、ダッシュで廊下に出ると居間へのドアを閉めた。何やらきらきらと目を輝かせながら、興奮気味にこう言った。
「サザ、聞いた? ルックスはいいし家事は出来るし、趣味がないから散財しないし、貯金がある上にババア抜き*1よ! しかもお父様が誘い受けって事は、主導権を握っているのはお父様の方。好物件だわ!」
「ババア抜きって、ミカヤ、一体何歳なんだよ!? ていうか、注目すべきはそこかよ!」
何というか…俺は涙が出そうになった。このままでは、ミカヤの奴隷が一人増えるだけじゃないだろうか。
ミカヤは俺の手を引いて再び食卓に戻ると、にっこり微笑んでこう言った。
「ねえお父様。わたしもサザも、その人に是非会ってみたいです」
「もちろん。そのつもりでこうして話したのですから。今度うちに連れてきても良いですか?」
「ええ。サザもいいわよね? いいでしょ?」
「うん、まあ…いいけどさ…」
かなり色々と不安を覚えないでもなかったが…俺にはうんと言う以外ない。
…ミカヤが俺に『いいわよね』と訊く時は、『いいと言いなさい』という意味だから。

サザはゼルギウスと会った時、説得を試みたのですが、ゼルギウスのセフェランに対する心酔っぷりに説得を断念せざるを得なかった…という設定です。

*1:「家付きカー付きババア抜き」…昭和期の流行語。結婚相手(男性)の理想条件で、一戸建ても自家用車も持っているが、姑はいないという意味。

ファイアーエムブレム::暁現代パロ | 2007.08.17 19:00 | comment(0)

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