暁第三部終章後。
【負】の気にあてられて倒れた白鷺兄妹の中で、一番最後に意識を取り戻したのはリアーネであった。
彼女が目を覚ますと、ベッドの左右に二人の兄が陣取っていて、その後ろにニケ女王やらティバーンやらネサラやらが立って、リアーネの方を覗き込んでいた。
「リアーネ…気がついたか」
『…リュシオン兄様…』
リアーネはしばらくぼんやりした様子で天井を見ていたが、やがてむくっと起き上がった。
「あっ…リアーネ、いきなり起き上がって大丈夫か? 具合が悪いならもう少し休んでいても…」
『……兄様…』
リアーネはリュシオンと目を合わせると、しばらく黙りこくっていた。
かと思うと次の瞬間、何と、リアーネはいきなりリュシオンのみぞおちに一発叩き込んだのである。
「っ…!」
殴ったリアーネと殴られたリュシオン、両方が共に声なき悲鳴を上げた。リュシオンは胸を抱えてその場に崩れ落ち、リアーネは痛む右手を胸に抱えて目を涙で潤ませた。
あまりに予想外の出来事に、誰もがすぐに反応出来なかった。だが放心状態から我に返ったラフィエルはリアーネの顔を覗き込み、
「リアーネ、どうしたというのですか!?」
と、声を荒げて尋ねた。
だが、リアーネはそれに答えなかった。彼女は今度はラフィエルの胸倉をがしっと掴むと、彼の白い額に頭突きをかましたのだ。
「ラフィエル!!」
背後のニケとティバーンが、失神しかけたラフィエルを慌てて左右から抱える。
リアーネは今度は額を手で押さえて、痛い、と古代語で何度か繰り返し呟いた。そしてその後、涙ぐんだ顔のまま彼女はこう言い放ったのである。
『兄様たちのばか!』
…一同は言葉を失った。
『せっかくまた兄妹で会えたのに、どうして敵になって戦ったりしたの! 兄弟で喧嘩するのが正しいことなの、お父様のことはどうでもいいの!?』
「…リアーネ…いや、私と兄上は喧嘩したわけではなくて…」
『でも敵同士になったじゃない! みんな、どうして私をいつも蚊帳の外にするの! 子供扱いして勝手に話を進めて…あそこに置いて行かれてすごく淋しかった、私がどんなに謡ってもメダリオンは静まらなくて、どうしたらいいのか分からなくて、すごく怖かった。でも、誰も来てくれなかったわ!』
リアーネは枕をラフィエルに向かって投げつけると、リュシオンの手をぺちっと振り払って一人で泣き出し始めた。
「リアーネ姫が怒るのも最もだな…」
ニケがそう呟いた。
ネサラは困った様子でリアーネに近づき、こう言った。
「リアーネ、泣くなよ」
が。
『ネサラは来るのが遅いわ!』
「えーと…はい、すみません…」
ネサラへの台詞は殆ど八つ当たりです。
リアーネは周囲が思ってる程子供ではないと思います。それなのに周囲のダメ男共には子供扱いされて。
「まったく、これだから男と言うものは!」とか言ってもいいよ、ホントに。